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                           「初めまして。お母さん 」




                           驚きながら勢いよくドアを開けた。

                           ドアの向こうに立っていたのは15歳くらいの少年と小学生くらいの小さな女の子だった。

                           女の子は嬉しそうな顔をすると、あたしの所まで走って来てがばっと抱きついてきた。




                           「お母さんだ。お母〜さん。」

                           「こら!桜 いきなりだとびっくりするだろ!」

                           「だって、お兄ちゃん・・ 」


        
                           お母さん?お兄ちゃん?


                           もしかして、あたしの・・・




                           「そうですよ。お母さん、俺は花沢甲斐こっちは妹の花沢桜です。」


                           「あたしの子供・・ 」

          
                           「お母さん〜」

          
                           「つくし誰だったの?」


                           「あ、類 ・・・ 」



                                  *



                           「俺と桜はそう遠くない未来からやって来ました。お父さんお母さん 」



                           いつの間にか、上がり込んで優雅に紅茶を飲む少年は花沢甲斐君。

                           その隣でそわそわしながら嬉しそうにあたしを見つめる女の子は花沢桜ちゃんと名乗った。



                           「で、家はどこ?もう20時だし早く帰らないとお家の人心配するよ。」


                           はなっから信用していないであろう類はさっきから胡散臭そうな顔をして、二人から一生懸命住所を

                           聞き出していた。


                           「東京都XX区xx丁目の花沢屋敷です。」

                           「それって、俺の実家じゃない?」

                           「やだなぁ、未来の俺の家ですよ。お父さん」

                           「気安く呼ぶな。誰がお父さんだ」

                           「あなたですよ。意外とおしゃべりなんですね。もっと無口な人だと思ってました。」

                           「誰のせい?」


                           何かさっきからブリザードが吹いてるんだけどなぁ。

                           あたしはさっきから、あたしを見つめている桜ちゃんに向かって話しかけた。



                           「ね、お腹空いてない?」

                           「す、少し・・ 」

                           「サンドイッチで良かったら用意出来るけど。」

                           「た、食べるー。」

                           「じゃぁさ。キッチンに行こうか」

                           「うん。」



                           可愛いなぁ。桜ちゃんて、類にそっくりじゃない。

                           甲斐君も。



                           「つくし・・ 」

                           「類はさぁ、こんなにそっくりなのに、信じないの?」

                           「つくし!?」

                           「あたしは信じるよ。この子達嘘言ってるようには思えないもの。それに自分の子だよ。」


                           二人とも、こんなに類にそっくりで、澄んだ瞳をしてて。

                           突然現れたんだよ。

                           こんなセキュリティばっちりのマンションの玄関ドアの前まで。


                           それに、甲斐と桜だなんて、何よりの証拠だよ。





                           「過去の類へ

                            単純な牧野はともかく、類はきっと信じないだろうから、俺様達が一筆書く。

                            甲斐と桜は未来に生まれるお前達の子供だ。

                            理由があって、お前達の所に行く。どうか黙って受け入れてやってくれ。

                            子供達が満足するまで。頼む 類 」


                           「道明寺司、西門総二郎 美作あきら ふーん、これ本当に本人にそっくりに似せてあるね。」

                           「本物ですよ。間違いなく司おじさん達の直筆です。お父さんが絶対疑うだろうからって実印も
                            押してくれました。ほらほら」

                           「ほんとだ。」

                           「ね。」


                           にんまりと微笑む甲斐君に類は子供みたいに顔をプイと背けてしまう。

                           ちょっとはこの子達の話を信じたのかな?



                           「司おじさんが企業とは関係なしに、世界中の科学力と人材を集めて開発させたんです。
                            いわゆるタイムマシーンを。だけどそれはまだ不完全だった。たった一回しか使用できないんです。
                            だからチャンスは今回だけ。しかもたったの3日間。」

                           「司が?」

                           「司おじさんは責任を感じていた。いつも、いつも。だから過去に戻って変えてこいって。」

                           「変えるって、何を?」

                           「それは言えません。下手したら俺らにも関わってくることだから。」


                           甲斐君は類に真剣な眼差しを向けると一転してあたしに微笑んできた。

                           それは天使の微笑みで類にそっくりで。

                           あたしは赤面してしまう。


                           「お母さん、顔まっかっかー。」

                           「桜ちゃん・・ 」


                           「取りあえず、3日間お世話になります。よろしく、お父さんお母さん」     


                           「勝手にすれば。」


                           「わーい。お母さん、一緒に寝ようー。」

                           「いいよ。桜ちゃん」



                           可愛いな。



                           「ダメ!桜は甲斐と一緒にゲストルームで寝て。つくしは俺のだから」

                           「ちょっと、類!こんな小さい子になんてことを!」

                           「小さいたって、甲斐と年が離れてるだけで7、8歳くらいでしょ。お母さんお母さんってべったりな
                            年でもないじゃん。」

                           「うっううっ・・・く・・ 」

                           「桜、こっち来いよ。」



                           甲斐君、桜ちゃん・・



                           「いいよ。行かなくていい。あたしと一緒に寝よう、あたしがゲストルームに行くから。」

                           「つくし!?」

                           「取りあえず、桜ちゃんをお風呂に入れて来るから。類はゲストルームに暖房入れといて。
                            甲斐君は類から適当に服を借りて。るーい、頼んだわよ。」

                           「あい。」

                           「よろしい!」


                           あたしは桜ちゃんをお風呂に入れ、これまたお風呂に入った甲斐君と3人仲良くベットで横になった。


                           「お母さんの匂いだぁ〜」


                           桜ちゃんはあたしにすり寄ってきて可愛い。

                           あたしが頭を撫でるとすぐに安心したように寝入ってしまった。


                           「もう寝ちゃった。可愛いな桜ちゃん」

                           「お母さんの傍だから嬉しくてはしゃぎすぎたんです。」

                           「それは、甲斐君もかな?」

                           「お母さん。俺は・・ 」


                           体格のせいか一見青年のようにも見える甲斐君はまだ少年だ。

                           類と話す時は務めて大人ぶって話してるけど、こうして一緒にいるとまだ子供っぽいところもある。

                           類にそっくりの容姿。

             
                           あたしが夢見ていた未来、類の可愛い御嫁さん。

                           類にそっくりな可愛い子供は二人は欲しい。

                           それも男の子と女の子を一人ずつ。

                           名前は甲斐と桜。



                           だからね、この二人を見てあたしはすぐに分かったんだ。

                           二人はあたしの子供だって。

                           そして、あたしを見て嬉しそうに抱きついて甘えてくる桜ちゃんを見てふと思ったんだ。




                           
                           「ねぇ、未来であたしはもしかして死んじゃってる?」





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